あそびログをつくった理由
ロンドンはもともと土日だけの店でした。土日にスタッフが紙にメモしていたお客さまの情報と、実際に遊ばれたゲームの記録。それを仕組みにしたのがあそびログです。なぜ平日を無人にできたのか、なぜデータを集めているのか、店主が書きました。
ロンドンの平日は、スタッフがいません。予約も支払いも解錠も、LINEのミニアプリで完結します。
「なぜそんなことをしているのか」を、一度ちゃんと書いておきます。あそびログという仕組みの話です。
もともとウェブ屋でした
私は吉祥寺でウェブの仕事をしています。制作会社です。お客さんの困りごとを聞いて、それを解いて、世の中に効率良く広める仕事です。
デザイン、プログラミング、ディレクション。大きい会社も小さな会社も担当してきましたが、どこも必死に自社サービスを考えて発展させようとしています。そのお手伝いとして、情報を再設計したり、デザインに落とし込んだり、広告の仕組みをつくったり。
熱意のあるクライアントが好きです。一般的に「扱いにくい人」と言われるような方と話すのも大好きです。お客さんと話すこと、成長のための問いを適切にあぶり出すこと、分析と解析をして数字を見ながら「じゃあこうしよう」と決めること。そしてチームでその問いを昇華させていくこと。そういう仕事が好きでした。
そして、10年ほど前にボードゲームを遊んでみたら、これが面白かった。
仕事や生活の一部が、切り出されていると感じました。しかも適切なバランスで楽しめるように整えられている。同じゲームを何度も遊んでも飽きない。
確か夏でした。初めてボードゲームカフェに遊びに行った帰り道で、スタッフと「コレ楽しいね」「つくっちゃうか〜」。
それで11月にボードゲームカフェを始めました。動機としては単純です。
土日だけの店でした
ただ、始めてみると人手が足りません。土日だけ営業して、平日は予約が入ったときだけ開ける、という形が長く続きました。
その土日、スタッフはお客さまのことをメモしていました。何人で来たか、はじめてかどうか、どんな雰囲気のグループか。そしてその日どのゲームを遊んで、どれが刺さったか。
それを次の土日にスタッフ同士で共有します。「あのグループにはあれが良かった」「この人数ならこっちが安全」。そうやって、次のご案内の精度を上げていました。
紙とスタッフの記憶でやっていたことです。効きましたが、限界もありました。メモした人しか知らないし、その人がいない日には使えません。
メモを、仕組みにした
ここ数年で、やりたかったことが急にやりやすくなりました。AIのおかげです。もともとウェブの知識はあったので、あとは手を動かすだけになりました。
まずLINEのミニアプリで、予約・決済・解錠・施錠をひととおり実装しました。これで平日にスタッフがいなくても店が回るようになります。平日を無人にできたのは、この部分が動いたからです。
そのうえで、集まったデータと、私とスタッフが持っていた知識を統合しました。最初にやったのはゲームの分類です。ジャンル名ではなく「遊ぶとき、何がおいしいか」で分け直しました(ゲームの分け方にまとめてあります)。
そこまで用意して、あそびログをつくりました。
あそびログが何をしているか
やっていることは、土日にスタッフが紙でやっていたことと同じです。
- どんなグループが来たか(人数、はじめてかどうか、その日の雰囲気)
- 実際に何を遊んだか(自分たちで選んだもの、こちらが提案して遊ばれたもの)
この2つを組み合わせて、次のご提案をしています。
ボードゲームが初めての方に外れの少ない1本を出すのは、もちろん大事です。ただ私がやりたかったのは、もう一方です。さんざん遊んできた人に「これは!」と思ってもらえる提案。そこまで届く仕組みにしたい、と思ってつくりました。
打ち込むのは、正直めんどうだと思います
遊びに来て、記録を打ち込む。自分がお客さんなら面倒です。
なので土日祝は、あそびログの許可だけいただければ、あとは打ち込んでいただかなくて大丈夫です。 店員がやっておきます。お客さまは遊んでいてください。
そして、面倒なだけでは申し訳ないので、使っていただくとポイントが貯まるようにしました。貯めるのは平日でもできて、土日祝の有人営業のときにドリンクや割引と交換できます。まだあまり知られていないのですが、ちゃんと動いています。
ここまでに試したことの記録(技術寄りの話・興味のある方だけどうぞ)
仕組み
20秒に1回の静止画から GroundingDINO で箱を切り出し、SigLIP2 で埋め込みにして、うちの在庫の見本帳と最近傍で照合します。「世界中のゲームから当てる」のではなく「うちの在庫のどれか」を選ぶ閉集合の問題なので、汎用の画像AIに毎フレーム投げるのは最初に却下しました。従量課金が卓数×店舗数で膨らむのと、モデルが勝手に更新されて再現性が消えるためです。
3タイトルの実証で85%。本番につないだら0%
原因は見本帳でした。メーカーの箱絵405枚に対して、店で撮った実物は数枚。この比率だと、店内の写真は「同じく店内で撮られた数枚」へ片っ端から吸い寄せられます。実測で、箱絵だけの見本帳は7.8%、実物だけなら89.4%。箱絵と実物を混ぜてはいけない。
店を閉めて撮影会
83本ぶんの箱を実カメラの下に並べる肉体労働です。収穫は、白い箱が明るいマットの上だと検出されないと分かったこと。輪郭が背景に溶けて四角として切り出されません。木のテーブル面に直接置いたら一発で拾えました。
事故も山ほどありました。「人が写っていない卓は無視する」を入れたら観測がゼロになったこともあります。2台は画角の都合で人が写らず、観測の93%がその1台から出ていました。
8月、一番大事な数字
オフラインの検証では80.4%、実際の営業中に写った箱では30.3%。50ポイントの落差です。原因は集約方法でもデータの偏りでもなく、「営業中に写る箱は、撮影会で撮った箱よりはるかに難しい」。それだけでした。
しかも失敗はタイトルごとに極端で、宝石の煌きは92.9%当たるのにカタンは6.1%。参照写真は17枚あるので、枚数の問題ではありません。次は全体を均す施策ではなく、タイトル単位の棚卸しからやります。
いま止めている理由
技術的に詰まったからではありません。精度は「お客さんが実際に遊んでいるデータ」でしか測れないからです。平日は組数が少なく、実質土日にしか分母が積めない。1サイクル1〜2週間かかります。今は平日の無人営業を優先しています。
学んだこと
「動いた」と「効いた」は全く別物だということ。切り替えた・焼き込んだ・デプロイが通ったは全部「動いた」で、効いたかどうかは営業中のデータでしか分かりません。その答えはたいてい、期待より2〜3割低いところに出ます。
またやります。似たことをやったことがある、こうすればいけるよ、というノウハウをお持ちの方がいたら、ぜひ教えてください。LINEでも、お店に来て直接でも歓迎します。
使われるほど、当たるようになる
あそびログは、使われた分だけ精度が上がります。
誰かが4人で2時間遊んで記録を残すと、次に4人で2時間の枠を取った方への提案が少しだけ良くなります。お客さまの記録が、次のお客さまの体験に直結する仕組みです。
だから、ぜひ使ってほしいと思っています。
いま、夢中になっていること
分類(遊び味)をもっと先に進めたくて、コンサルティングの手法を持ち込んでゲームの分解と構造解析をしています。
それぞれのゲームが投げかけている「問い」とは何か。これを1本ずつ分解しているのですが、これがまあ大変で、そして面白い。正直、そのせいで他の仕事が進んでいません。
いずれこれもあそびログに取り入れて、提案の質を上げていきたいと思っています。
あそびは、これからもっと要る
ここからは私見です。
AIが出てきて思うのは、AIさえあれば生産性が上がるのではないということです。
使った人ならわかるはずです。AIは自分の能力以上の仕事は難しい。数倍以上の生産性は得られますが、知らない領域の秘伝のタレは教えてくれません。1から勉強し、体験して得た知見から答えを出すための、便利アイテムです。
つまり、その「1」は自分で持っていくしかない。
そしてもうひとつ、持っていかないといけないものがあります。問いです。
AIは答えを出すのがものすごく速い。ただ、何を聞くかは決めてくれません。筋の悪い問いを渡せば、筋の悪い答えが速く返ってくるだけです。しかも、それらしい顔をして返ってくるので気づきにくい。
では、いい問いはどこから出てくるのか。私の実感では、体験の中からしか出てきません。やってみて、詰まって、「あれ、こっちじゃないのかも」と思った瞬間に立ち上がってくる。机の上で考えて出てくるものではないです。
さっき「仕事や生活の一部が切り出されている」と書きました。限られた手番で何を取るか。情報が足りないまま決めるか、待つか。相手が何を狙っているかを読む。降りる判断をする。全部、仕事でやっていることと同じ形をしています。
違うのは、失敗しても誰も困らないことです。何度でもやり直せて、しかも笑える。問いを立てる練習台として、これ以上安いものはありません。
だから、いっぱい遊びましょう。他のお店でも全然かまいませんが、できればロンドンに来て、一緒に遊びましょう。
お願いです
長くなりました。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
平日は9時から23時まで、5時間1,500円で使えます。スタッフはいませんが、そのぶん安く長く、誰にも話しかけられずに過ごせます。土日祝はスタッフが常駐して、ゲーム選びとルール説明を担当します。
どちらでも構いません。遊んだら、あそびログに記録を残していってください。 それがそのまま、次に来る誰かの「これは!」になります。
あそびログ、よろしくお願いします。
気になるゲームは来店時にスタッフが説明します。
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店舗情報・料金:吉祥寺のボードゲームカフェ ロンドン
